Social Good Blog Written by 平畑隆寛@社会福祉士

ソーシャルワーカーにとって障害受容の理解とは【結論:その人らしい生き方を理解することが重要です】

social worker

こんにちは、タカヒロです。

普段は地域包括支援センターで社会福祉士として働いています。社会福祉士のキャリアは、MSW→老健相談員→包括職員として渡り歩いてきました。現在、県社会福祉士会副会長や研修講師なども担っています。

さて今回は「ソーシャルワーカーにとって障害受容の理解とは」というテーマです。僕自身、このテーマでお伝えするのは難しいですが、学びつつ解説していきます。

悩みの共有

「障害受容」と聞いて、こんな悩みはありませんか?

  • 悩み①:そもそも障害受容の過程ってなに?
  • 悩み②:障害受容という枠組みを当てはめていいの?
  • 悩み③:ソーシャルワーカーとして、障害受容にどう関わったらいいの?

上記の通り。これらの悩みについて紐解いていきます。

もくじ

  1. ソーシャルワーカーにとって障害受容の理解とは
  2. 障害受容を理解するための行動
  3. まとめ

※この記事は15分程度で読むことができます。あくまで実践を通した障害受容の考え方ですので、持論が多いことご了承ください。

ソーシャルワーカーにとって障害受容の理解とは

まずは下記ツイートをご覧ください。

あるエピソードをもとにツイートしました。たくさんの共感をいただき、多くのソーシャルワーカーが「障害受容」について、何らかの違和感や考え方を持っているんだと、改めて理解できました。

障害受容への理解とは

早速ですが、この記事の結論は下記の通りです。

その人らしい生き方を理解すること

上記の通り。「障害を受容させる」ことではなく、「障害に向き合う、または向き合おうとしているクライエントを理解する」ことが重要です。

では、「クライエントが障害に向き合う」とは、一体どんな過程なのでしょうか。

障害に対する気持ちの変化(起伏)はさまざま

下記は、回復期病院で働いているときに経験したことです。

  • リハビリを開始すると「こんなに動かないと思わなかった」と落ち込む
  • 入院中はできることが増えても、退院後の生活はできないことが多く葛藤する
  • 「できない」ことに向き合いすぎて、「役に立つ人間ではない」など自己肯定感が低くなる

上記の通り。障害に向き合うことは簡単なものではありません。リハビリを開始して一見良くなったと思っても、実生活では上手くいかないことが多いです。その度に「心が折れる」体験をするわけなので、悲観的な発言や内向きの行動になることは当たり前の反応だと思います。

教科書的な障害受容論

ここでは、僕が学生の頃に「障害受容」について学んだことを紹介します。

平成22年に改訂された「社会福祉用語辞典」では、障害受容を下記のように書いています。

自分の身体障害を客観的かつ現実的に認知し、受け入れること。一般的には、①ショック期、②混乱期、③適応への努力期、④適応期、という受容過程が考えられるが、直線的に移行する(逆戻りしない)ものではない。また、すべての障害者が100%の受容に至るものではない。何を受容と呼ぶかによっても変わるが、健常者も含めて、すべての人は何らかの重荷を背負って人生を歩むと考えられるべきである

確かに①から④の過程が「直線的」ではないことに共感します。しかし、そもそも上記に挙げられる過程に、障害への葛藤や理解を当てはめられるのでしょうか。

人はそんな簡単に、いま置かれている現実(障害)を受け入れるだけサクッと割り切ることは難しい。当然葛藤はあります。その過程では孤立に陥る時もあります。そんなときに「望む生活のために、こんな方法もありますよ」と障害に理解しつつ提案することで、クライエントの今後の人生に光が差し込むかもしれません。

クライエントの思い

包括職員になって、生活期での障害受容に出くわす場面が多くなりました。僕がクライエントから聞いた障害への理解は下記の通りです。

  • 「落ち込むときもあるけど、動かない手も私の一部だから」
  • 「病気が多い人生だけど、書き留めることで正しく振り返ることができる」
  • 「できないことに固執せず、残った方(機能)で楽しめばいいのよ」

上記の言葉は、僕が包括に入ってから印象深いものを挙げました。奥が深いです。紆余曲折しながら、障害を理解しようとしています。このような言葉を出すまでに、相当な葛藤があったと思います。その過程にソーシャルワーカーとして関わる意義があるのではないかと、僕は考えます。

障害受容を理解するための行動

まずは下記のツイートをご覧ください。

上記の通り。僕は「障害受容」について考える際、押富俊恵さんの考え方がしっくりきます。

押富俊恵さんの考え方

押富俊恵さんは作業療法士として働いていた24歳のときに重症筋無力症と診断され、1年後には人工呼吸器を装着するまでに至った方です。2021年4月に39歳という若さで亡くなりました。健常者から障害者になったことで、従来の障害受容の過程に違和感を訴え、さらに支援者が捉える障害受容に対して提言もしています。

上記のツイートで添付した資料を抜粋します。

障害受容論を再読してみて、思うことは、受容の過程を型にはめるのは難しいってことです。障害を持った人が感じることや、障害の受け止め方はやっぱり人それぞれです。

「頑張ろう」って思ったり、「なんでこんなことになっちゃったんだろう…」って思ったり、常に揺れ動いているものだと思います。当事者の気持ちは、ポジティブになったりネガティブになったり忙しいのです。

健常者がどれだけ議論したって、そんな繊細な気持ちの揺れ動きは分からない。障害受容論って、本当は机上の空論なんじゃないの?って気持ちになってしまいます。

僕はMSWのとき、障害受容論に当てはめようとしていました。今思えば恥ずかしい限りです。葛藤などの過程は理解していたはずですが、枠にはめようとすることは、ソーシャルワーカーとしてしては不適切だったと振り返ります。

支援者に対する提言

押富俊恵さんは、支援者に向けて「障害受容とはこんな風に捉えてくれたらいいけどね」という提言もしています。

そこで、医療職やケアスタッフに望むこと。それは、「受容すること」の援助ではなく、「理解すること」の援助です。

障害を乗り越えるとか、受け容れるとか、そういうことではなく、障害があっても「折り合いをつけて生活していく」「共存していく」その方法を見つけていく手伝いができるのが専門職の役割であるのではと思うのです。

動かないこと、治らないことを切々と分からせるのではなく、「動かない、治らない事実を話しつつ、障害があっても折り合いをつけていかなくてはいけないこと」を理解してもらうように努力して欲しいのです。

僕はMSWのとき、既存の障害受容論に当てはめようとしていました。「今この段階かな」「結構否認期が長いな」とか。そこからクライエントの気持ちを推測することはありましたが、最初の主語は「受容論」でした。恥ずかしい限りです。

押富俊恵さんは、「当事者のペースで受容過程を歩み、具体的な生きる方法については、専門職と一緒に考えていこうよ」とのメッセージだと、僕は受け止めています。皆さんはいかがでしょうか。

ソーシャルワーカーとしての障害受容の考え方

押富俊恵さんが提言していることは、「障害受容の過程ではなく、生活へ目を向けること」だと思います。そのためには「その人らしい生活を理解する」ことから始めなければなりません。僕は実践を通して3つの理解を提示します。

  • 理解①:受容論に当てはめようとしない
  • 理解②:そもそも当てはめることは無理
  • 理解③:個別性を重んじよう

上記の通り。「当たり前よ」と言う方がいると思いますが、実践をしていると冷静さを欠く場合があります。そんなとき、上記の3つを頭の片隅の置いておくだけで、障害受容論ではなくクライエントの生活に目を向けられるとはずです。

専門職として受容過程を共に歩むということ

受容過程をクライエントのペースで共に歩むことは、簡単なことではありません。十人十色の受け容れ方があり、時には葛藤をぶつけられることもあるかもしれません。ただ負の感情は、不安の裏返しの場合が多いです。そのような受容過程に対して、ソーシャルワーカーとしての具体的な方法を3つ挙げます。

  • 方法①:生活の質が上がるための助言や提案
  • 方法②:クライエントにとって有益な情報を提供
  • 方法③:最後はクライエントが決める過程が大事

上記の通り。着目すべきは「障害受容の過程」ではありません。あくまで「生活」を見ることが重要です。そのためには、クライエントが望むQOL(生活の質)がどのようにしたら上がるのかを、専門職の立場でわかりやすく提案や情報提供することが大切です。

また、選択肢を提示した際はクライエント自らが決められることで、上手くいった場合の「成功体験の獲得」や「自己肯定感の向上」にもつながるような支援が必要です。

まとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事では、下記の内容でお伝えしました。

  1. 障害受容論の説明(違和感あり)
  2. 押富俊恵さんの受容過程と提言
  3. ソーシャルワーカーとして受容過程をどのように支援するか

僕は以前より、従来の障害受容論に違和感を感じていました。ちょうどMSWを辞める3年前ぐらいでしょうか。人は誰しも一定の枠組みには当てはまらないのです。よって、無理に当てはめようとせず、クライエント個々のペースを理解するところから始めなければなりません。

ソーシャルワーカーなど専門職に求められていることは、「クライエントが望む生活を理解し、実現するための具体的な方法を一緒に考えること」だと思います。なので決して受容過程を押し付けず、折り合いをつけていくような支援が求められます。

今回「障害受容」をテーマに書き始めて、2週間以上が経ちました。難しいテーマでした。ですが、僕なりに実践を踏まえて今出せる能力で言語化をしたつもりです。この記事が多くのソーシャルワーカーの目に留まり、実践場面で役に立つことを願っています。

最後に参考図書を提示します。押富さんと同じ作業療法士で田島明子さんの著書です。田島さんも「障害受容に対して違和感」を感じている専門職の一人です。気になる方は、下記カードよりご覧ください。

では、今回はこの辺で😌