ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法【結論:ジレンマの解決過程そのものが成長につながります】
こんにちは。社会福祉士のタカヒロです。
今回は、ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法について解説します。
倫理的ジレンマに対する悩み
悩み①:組織とクライエントとの板挟み 悩み②:支援計画通りに進まない 悩み③:ジレンマを抱えて燃え尽き症候群になりそう
上記の通り、こんな倫理的ジレンマを抱えている方はいると思います。
僕も経験済みです。
この倫理的ジレンマを抱えすぎると、ソーシャルワーカーを辞めたくなる場合もあります。よって、この記事では倫理的ジレンマの説明ではなく、倫理的ジレンマの解決方法を、僕の実体験も含めて詳しく解説します。
この記事を読み終えたあと、倫理的ジレンマに対してポジティブに捉えていただければ幸いです。
この記事の信頼性
僕は、回復期病院→介護老人保健施設→地域包括支援センターと渡り歩いてきました。その中で、組織が違うと倫理的ジレンマにも変化が生じることを学びました。
この記事を通して、少しでも皆さんに倫理的ジレンマの解決方法が伝わることを目指します。
もくじ
- ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法
- 僕が体験した倫理的ジレンマ
- 倫理的ジレンマを解決する5つの方法
※この記事は15分程度で読むことができます。
ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法
まず、倫理的ジレンマの解決方法について。
結論①:ジレンマを抱くことは成長につながります
タイトル通りですね。
さらに言えば、
結論②:ジレンマを抱いていることを自覚する 結論③:それぞれの倫理責任を理解する
上記の思考が必要です。後ほど深掘りしますので少々お待ちをください。
そもそも「倫理的ジレンマ」とは一体なにか?
この問いを説明します。
一般的に言われている倫理的ジレンマとは下記の通り。
一つないし複数の倫理的事案が発生し、どれも重要と考えられる場合に発生
なるほど。ではもう一つ。
日本社会福祉士会が発行している「基礎研修テキスト(上巻)」では、下記のように説明しています。
私たち社会福祉士の実践現場(組織)に対する倫理責任は、多くの場合、利用者に対する倫理責任と矛盾することも少なくなく、ジレンマを引き起こすこともある。
組織とのジレンマを解説した一文ですが、まだよくわかりませんね。
持論ですが、倫理的ジレンマは対象によって変化します。
- クライエント
- 組織・職場
- 社会
上記の通り。
それぞれ簡単に解説します。
クライエント
クライエントとの間に生じる倫理的ジレンマは、明らかに生命の危険性が高い予後なのに、クライエントの意向は「何もしなくていい」だとすれば、生命保護と意思決定の間でジレンマが生じます。
これは極端な例ですが、ソーシャルワーカーの倫理責任において、意思決定支援はジレンマに苦しむケースだと思います。
組織・職場
「組織の利益優先」が最も当てはまるのではないでしょうか。ソーシャルワーカーであると同時に「組織人」であるがために、組織に抗えない場合もあります。このようなときに倫理的ジレンマを抱えてしまいますね。
社会
世論の同調は時として怖いものがあります。障害者が事件を起こした場合、様々な環境因子があるものの切り抜きで報道される。そのような社会の風潮とソーシャルワーカーとしての価値が乖離する場合も少なくありません。
僕が体験した倫理的ジレンマ
ここでは、僕が体験した倫理的ジレンマを紹介します。
医療ソーシャルワーカーでの体験
回復期病院に勤めていたときの話です。
結論から説明すると、下記の通り。
退院支援でのクライエントと組織の板挟みにあいました
医療ソーシャルワーカーにとって「退院支援」はなかなかジレンマを抱くことではないでしょうか。組織からは「いつまでに退院調整を」と命令を受け、患者・家族(以下、クライエント)からは「まだ入院したい」など、相反する意向を聴きます。
クライエントの意向が「単に入院を続けたいから」であれば組織側の都合も説明しやすいですが、多くはそうではなく、退院できない個人および環境因子があります。
例えば、下記の通り。
- 理由①:独居で認知症。地域における支援体制を整えないと生活が困難
- 理由②:そもそも自宅環境が劣悪で、施設入所も検討しないといけない
- 理由③:虐待の可能性があり、家族に対する助言や関係機関との連携が必要
などなど。
上記の問題を、解決もしくは次の支援者にバトンパスしてから退院することが望ましい。しかし、組織の都合はソーシャルワーカーの支援計画通りにはさせてくれません。
特に回復期病院では「アウトカム」の概念があります。
短い入院期間でADL(日常生活動作)を最大限向上させたら報酬増
よって、ADLが概ね向上したら早く退院させたいわけです。
でも、待ってください。クライエントの生活は…??
ここで ソーシャルワーカーの専門性が発揮されますが、クライエントの利益と組織の都合という、倫理的ジレンマに陥ります。
僕は回復期病院にいる頃、何回も苦しみました。キツかったですね。
ジレンマを抱くことがキツいのではなく、組織に対して「このまま退院すると病院としてリスクですよ」とか、「この患者は問題ないので退院予定の患者と順番を変えませんか」など、あの手この手で交渉していました。これが大変でした。
ソーシャルワーカーにとって「交渉」は必要なスキルですが、やりすぎると病んでしまいます。実際に退職を考えた時期もありました。
ソーシャルワーカーが退職を考えるとき【結論:ソーシャルワーカーの経験はどこでも通用します】
ソーシャルワーカーが抱く退職の理由と退職後の進路について解説しています。この記事を読むことで、ソーシャルワーカーとしてのキャリアアップや今後の進路について行動できます。
とはいえ、倫理的ジレンマで退職やソーシャルワーカーを辞めたくないですよね。
次は、倫理的ジレンマを抱えた際の具体的な解決方法を説明します。
倫理的ジレンマを解決する5つの方法
先日、こんなツイートをしました。
僕が思うに、ジレンマを抱くからこそソーシャルワーカーとして成長します😌
人と環境が相反する場合、援助計画通りにいかない。そこにジレンマが生じるわけですが、当たり前ですね。双方の価値観は変化するので。むしろジレンマが生じる過程や価値感を探ると、アセスメントが向上し成長へつながります— タカヒロ@社会福祉士×ブログ (@ta_hi_ro_30) February 21, 2022
上記のツイートから、倫理的ジレンマを解決する方法について考えてみました。
結果はこちら。
それぞれの倫理責任(多様な価値観)を理解する
しかし…決して勘違いしてほしくないのが、媚びることではないということ。
よって、一番伝えたのは下記の通りです。
多様性を受け入れることは、SWとして成長しているとポジティブに捉えること
これです。
さらに、持論ですが、多様性を受け入れる実践を5つご紹介します。
- とにかく話を聴く
- 援助者の価値観を押し付けない
- 相手のジレンマを理解する
- Give & Takeで行動する
- 説明は説得ではなく納得してもらう
上記の通り。
では、それぞれ解説します。
とにかく話を聴く
まずは話を聴くことが必要です。何事にもこれがスタートですね。話をする前から価値観の違いを感じる場合もありますが、ぐっと我慢です。
なぜなら、相手の価値観がわからないから「違い」にフォーカスするわけです。よって、情報不足ということ。
僕は価値観が違うからこそ「興味を持つ」に着目します。
興味①:そのような発言をする背景はなにか? 興味②:相手が守ろうとしているものはなにか? 興味③:相手が希望する結果はなにか?
上記の通り。
さらに、話を聴くということは、遮らない。とにかく聴いてみましょう。
援助者の価値観を押し付けない
これは、ついついやってしまいがちなことです。「私自身」と「専門職」としての価値観が混合する場合があるからですね。
しかし、これは認めましょう。人間ですからしょうがないと。
要は、自己覚知したら良いと思います。
「あー、いま自分の価値観で説明しているわー」とか。
渡部律子さんの「高齢者援助における相談面接の理論と実際第2版」の中に、参考になる文言がありました。
- 私はこのクライアントに対して、いつも違った反応をしているか?
- その反応は何か?そこで、私がクライアントに対していだいている感情は何か?
- このクライアントの価値観はいったい何か?
- 同じような事柄に対して、私がもっている価値観は何か?
- クライアントが、このような価値観をもつに至った理由を理解できるか?
- このクライアントと自分の価値観の違いを乗り越えていくために、どのようなことができると思うか?
- どうしてもこのクライアントの価値観を、受け入れられないときにはどうするか?
これは、価値観の異なるクライアントに出会ったときの問題解決プロセスです。
価値観の違いについて深掘りしていくと、自然とクライエントもしくは対象としている人の意図が理解できるようになり、援助者としての価値観を押し付けずに済むと思います。
渡部律子さんの書籍に興味がある方は下記より購入できます。
相手のジレンマを理解する
相手の価値観が理解できるようになってきたところで、次にすることは「ジレンマを理解する」ことです。
僕の実践は下記の通り。
実践①:倫理責任を理解する 実践②:苦しみを共感し労う 実践③:解決方法を一緒に探る
この3つの実践を行うことで、相手のジレンマを理解できます。
結果、相手からの信頼度も上がり、自身の倫理的ジレンマの解消にもつながります。
Give & Takeで行動する
やはり「Give & Take」の精神は大切ですね。
こちらから何かを与えることで、相手からもお返しがある。逆に、一方的に相手から与えられるばかりでは、関係性がこじれてしまいます。
僕が常に意識していることは下記の通り。
意識①:相手が次の行動を実行できるGiveを考えること 意識②:当然、Takeだけでは離れてしまう 意識③:Win-Winの関係性を目指す
これです。
特に最後の「Win-Winの関係性を目指す」は、自分自身も成長できるマインドだと思います。
説明は説得ではなく納得してもらう
最後に説明するのは、僕のソーシャルワークの根幹を成していると言っても過言ではありません。
やはり人は「納得」の過程で、自己決定できると僕は考えています。
その理由は下記の通り。
理由①:説得はしこりが残る 理由②:選択の自由を与えること 理由③:利益をもたらす説明が必要
納得してもらう説明をするには、「相手のことを尊重する」ことが必要です。
たとえ尊重できなくても、興味を持つことで相手の「強み」を発見できる。
「強み=良いところ」と認識できれば、互いの倫理責任がぶつかることは避けられると思います。
まとめ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法について解説しました。
僕は、ソーシャルワーカーとして倫理的ジレンマは当然抱くものと捉えています。
人を相手の職業ならではですね。さらにジレンマの過程を深掘りすることで成長にもつながる。
問題なのは、倫理的ジレンマを抱いたソーシャルワーカーが燃え尽き症候群になり、最悪辞めてしまうこと。
よって、「倫理的ジレンマを抱えた場合の解決方法」を言語化できれば、悩んでいるソーシャルワーカーの役に立つのではないかと思い、今回の記事を作成しました。
この記事で伝えたかったことは下記の通り。
- 伝達①:ジレンマを抱くことは成長につながる
- 伝達②:ジレンマを抱いていることをまず自覚する
- 伝達③:それぞれの倫理責任を理解すること
さらに、倫理的ジレンマを解決するための5つの方法は下記の通り。
- 方法①:とにかく話を聴く
- 方法②:援助者の価値観を押し付けない
- 方法③:相手のジレンマを理解する
- 方法④:Give & Takeで行動する
- 方法⑤:説明は説得ではなく納得してもらう
この記事が、倫理的ジレンマで悩む多くのソーシャルワーカーの役に立てれば幸いです。
では今回はこの辺で😌