【注目】子ども家庭福祉ソーシャルワーカーとは【みんなでバーンアウトを予防しましょう】
こんにちは。タカヒロです。
突然ですが、2022年2月3日に「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)」が創設されました。この資格、以前から賛否両論がありました。そこで皆さんの中には、こんな疑問があるのではないでしょうか。
- 子ども家庭福祉ソーシャルワーカーってなに?
- 必要な資格なの?
- 資格取得までのルートを知りたい
この記事では、上記の疑問を解決できます。
記事の執筆者
僕は、県社会福祉士会副会長として、社会福祉士の動向を把握しています。また、周囲の社会福祉士からも聞き取りを行ったので、信頼性の高い記事になっています。
もくじ
では、それぞれ説明します。
※10分程度で読めますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーとは
「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」は2022年2月3日の社会保障審議会(厚生労働省の諮問機関)において、創設されました。
どんな資格なのか、ざっとこんな感じです。
- 社会福祉士や精神保健福祉士の上乗せ資格
- 国家資格ではない
- 500時間の教育課程あり
それぞれ深掘りしていきます。
社会福祉士や精神保健福祉士の上乗せ資格
なんと、上乗せ資格で決着したんですね。
実務経験の条件があります。
- 社会福祉士および精神保健福祉士 2年
- 子ども家庭福祉分野の相談援助業務 4年
社会保障審議会の一部の委員からは、「国家資格でないと質の担保が図れない」といった意見が上がりました。これにも賛否両論ありますが、ここでは議論しません。あくまで「子ども家庭福祉ソーシャルワーカーとは」に絞って説明します。
上乗せに舵を切ったのは、下記理由からと推測します。
「早急に児童分野に特化した資格を作る必要があったから」
これです。
なぜかというと、年々児童虐待の件数が上がっています。反面、対応する児童福祉司の数も専門性も足りないんですね。そのためには、早急に資格を作れる「上乗せ型」を選択したわけです。
参考までに「厚生労働省:令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」のリンクを貼っておきます。
既存の資格に上乗せすることで、新たな資格を取りやすくする仕組みです。
しかし、日本社会福祉士会には「認定社会福祉士」という制度があります。簡単に説明すると、分野ごとのエキスパートを日本社会福祉士会として認証するというもの。この制度を「子ども家庭福祉ソーシャルワーカーにスライドさせたらいいのに」と思う方は多いと思います。でもできなかった。
なぜなら、児童分野の認定社会福祉士は、全国で64名だからです(参考リンクです)。
数が足りないわけですね。この認証制度については、後日詳しく解説します。
国家資格ではない
前の記事と若干重複しますが、子ども家庭福祉ソーシャルワーカーは国家資格ではありません。
ここで議論されたのが質の担保です。社会保障審議会で参加委員から出た意見は下記の通り。
制度設計案は、「専門性を客観的に評価し担保できる仕組み」には当 たらない。児童相談所は子どもを親から引き離す判断、一時保護を解除 して親に返す判断を行うものであるため、認定資格ではなく、国家試験 により質を国が客観的に評価する国家資格とすべきであり、既存の社会福祉士・精神保健福祉士とは独立の資格とすべき。国家資格であるからこそ信頼され得る。
国家資格のほうが望ましいとは思う。一方、国家資格をちゃんと動か すのは 10 年というのはその通りであると思う。国家資格を視野に入れな がらまずは現任者ルートからという考え方は十分取り得るが、やはり国 家資格が適当である。
こんな感じです。やはり国家資格でないと、質の担保は難しいと考える委員もいます。
しかし国家資格化すると、取得までに時間がかかること、養成校の体制整備など課題が出てきます。ちなみに68%の養成校が「上乗せ型に賛成」と答えています。カリキュラムの編成など負担が大きいと推測します。
また、早急な児童虐待防止を資格創設の目的にするなら、ひとまず上乗せ型が妥当なのかもしれません。
将来的にどうなるか。国家資格化するのか、それとも児童福祉司のように任用資格に落ち着くのか。これには、認定社会福祉士の数やそもそも認証制度の改革が影響すると考えられます。今後の動向に注目です。
500時間の教育課程あり
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーには、500時間の教育課程が課せられる予定です。
厚生労働省が出している制度設計案はこちら(リンクはこちら)
この案を見る限り、大きく分けて2つのルートがあります。
- 社会人ルート
- 学生ルート
社会人ルート
社会人ルートでは、社会福祉士や精神保健福祉士を取得し、2年間の実務経験が必要です。他には子ども家庭福祉分野の相談援助の実務経験が4年という条件もあります。この子ども家庭福祉分野の相談援助業務は主に保育士が想定されてます。
いずれも「子ども家庭福祉指定研修を100時間程度受講」が必須です。実務経験4年の方は「ソーシャルワークに関する研修」が加わります。
社会人ルートでは研修方法にも工夫が必要です。例えば、オンライン併用とかレポートはメールなどの電磁的方法も認めるとか。非効率な研修体制では取得者が減るので、それでは本末転倒でしょう。
学生ルート
学生には社会福祉士や精神保健福祉士のカリキュラム(1200時間)に加え、500時間の専門科目の履修が必要となります。これは…まぁまぁ大変ですね。
内容は、座学・演習・実習からなり、カリキュラムの認定や試験などで質の担保を図るらしいですが、なんとも未知数です。
そもそもソーシャルワーカー養成において、現場感のない教育課程が問題となっており、就職後に「こんなはずじゃなかった」と、バーンアウトする新人ソーシャルワーカーは少なくありません。
資格管理する認証機構がどこまで柔軟に対応できるのか、ここにも資格の未来がかかっていると考えます。
児童福祉司の闇と救済
児童虐待の最前線で対応している職種として「児童福祉司」がいます。
児童福祉司の闇
ここでは児童福祉司の詳しい説明は省きますが、闇の部分を伝えると下記の通り。
- 平均勤続数 3年半
- 都市部での休職率 2.5%前後
- 社会福祉士または精神保健福祉士の国家資格保有者は5割
先日のツイート
児童福祉司の平均勤続数は3年半と言われています。要因は、休職と異動。虐待対応が多い都市部での休職率は2.5%前後。民間のおよそ5倍。そして業務に慣れてくる頃に他部署へ異動になり、人材が育たない問題もある。新たな資格創設が質の確保とは言い難く、行政構造の見直しが必要なのではと感じる。
— タカヒロ@社会福祉士×ブログ (@ta_hi_ro_30) February 6, 2022
やはり子どもの命を守る緊張感と、保護者からの批判を受ける業務は、相当ストレスが溜まると感じます。この課題に対し、児童相談所は対応していると聞きますが、一般にはなかなか伝わってこないのが現状です。
実際、僕は児童相談所で働いたことがないですが、社会福祉士会を通してヒアリングしたところ、なかなかのブラック職場の印象を受けました。しかし、子どもの命を守る使命感や行政職員としての責任感が大きく、民間のブラック企業とは性質が違うものと思います。
とはいえ、児童虐待の対応は待ったなしの状況です。そこで、子ども家庭福祉ソーシャルワーカーに期待するところ。しかし「そんなに上手くいくのか?」と疑問を抱く方は多いことでしょう。
児童福祉司の救済
救済と言うとおこがましいですが、仕事内容がハードであることに加え休職率の高さを見ると、バーンアウトがさらに拡大していくと予想できます。
児童相談所には経験を積んだ「スーパーバイザー」がいます。要件の一つに実務経験5年とありますが、子ども家庭福祉ソーシャルワーカーの場合、3年に短縮する案も出ています。実務経験が3年で本当にスーパーバイザーが務まるのか疑問点はありますが、そもそも既存資格の社会福祉士や精神保健福祉士の割合が増えることは、質の向上につながりそうですね。
しかし、質の向上にはソーシャルワークを用いた指導が必要です。
ソーシャルワーカーのアセスメントについては、こちらの記事をご覧ください。
職場の雰囲気もどうなんでしょうか。24時間365日、緊急対応に待機しているだけで、気が休まることがないのではと。
僕の個人的感想ですが、これだけ求職率が高いのは単に仕事が激務というだけではなく、職場内での心の安定や拠り所を持てているのか問いたいところです。
児童分野以外のソーシャルワーカーにできること
ここでは児童分野以外のソーシャルワーカーにとって、何ができるのか考えてみます。
結論、「バーンアウトにならないための行動が重要」
僕たちソーシャルワーカーは分野が違っても、助け合う業種だと捉えています。
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーが創設され、喫緊の児童虐待対応や人材の確保は待ったなしです。しかし、人材を増やしても休職や業務負担が減らない限り、根本的な解決にはなりません。そこで、こんなことを考えました。
下記ツイートをご覧ください
バーンアウトは、必ずしも職場内で予防するだけじゃないと思います。要は心の拠り所があれば、どこだって誰だっていいのではと。
例えば他分野のソーシャルワーカー同士で声掛け合ったり。労ったりアドバイスすることでバーンアウト予防に繋がります。まずはお互いの業務を知ることからでしょうか😌— タカヒロ@社会福祉士×ブログ (@ta_hi_ro_30) February 6, 2022
この通り、バーンアウト予防は職場外でも可能です。
では、具体的に何をしたら良いのでしょうか。
- 業務に関する労い
- 感謝を伝える
- 悩みや不安などを聞く姿勢(特に表情変化に注目)
いかがですか。できそうだと思いませんか。
ソーシャルワーカー同士、助け合うことはエンパワメントアプローチにつながります。そのためにも児童分野においては、児童福祉司や新資格の子ども家庭福祉ソーシャルワーカーにエールを送ってはどうでしょうか。
小さな取り組みかもしれませんが、過酷な児童分野で働いているソーシャルワーカーの励みになりますし、僕たちの行動によってバーンアウト予防にもつながります。
まとめ
この記事では、以下の内容でお届けしました。
- 子ども家庭福祉ソーシャルワーカーとは
- 児童福祉士の闇と救済
- 児童福祉分野以外のソーシャルワーカーにできること
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーにおける制度設計には、賛否両論あります。国家資格化や認定社会福祉士の活用、質の担保など様々です。
そして、児童虐待に対応している過酷な職場環境も理解できたと思います。バーンアウトの割合は非常に多いです。個人的な意見ですが、行政構造の抜本的な改革も必要と感じています。
そのような中で、児童分野以外のソーシャルワーカーができることは、少しでもバーンアウトを予防する行動です。苦しんでいるソーシャルワーカーがいれば、他のソーシャルワーカーが手を差し伸べていく。
これから、子ども家庭福祉ソーシャルワーカーを取得する方が出てきます。そしてこのような過酷な現場に投じていくことでしょう。資格に対する議論も必要ですが、資格取得者が継続して活躍できる環境やマインドを、他分野のソーシャルワーカーが応援する必要があります。
ぜひ、温かい気持ちでエールを送りましょう。僕は送ります。
今後も子ども家庭福祉行政に注目しつつ、今回はこの辺で終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。