包括職員から見た認知症への対応について【結論:最初の取っ掛かりにソーシャルワークが最も有効です】
こんにちは。社会福祉士のタカヒロです。
今回の記事は「包括職員から見た認知症の対応について」です。
課題の抽出
社会福祉士になって8年が経過し、改めて認知症について考えてみました。認知症に対する課題は下記の通りです。
- 課題①:認知症状があるのに、なかなか受診につながらない
- 課題②:認知症の進行を遅らせる取り組みを知りたい
- 課題③:対策はわかるが、本人が取り組んでくれる方法を知りたい
上記の通り。
僕自身、包括職員になって8ヶ月です。その中で認知症は切っても切り離せないもの。この機会に自己研鑽も含めて解説していきます。
記事の信頼性
社会福祉士として認知症に関わる際、やはりソーシャルワークが重要になります。この記事は、認知症に対する面接技術やアセスメントについてもご紹介します。
目次
※この記事は15分程度で読むことができます。
包括職員から見た認知症の対応について
「そもそも認知症とは何か?」の問いから考えてみます。
厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」によると下記の説明です。
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
社会福祉士になって認知症のことを知れば知るほど、症状は人それぞれ。どこからが認知症であるかは明確に線引きしにくいということがわかりました。さらに、認知症は「なったら終わり」ではなく、「なってからが勝負」の病気だとも感じています。
正しい認知症の知識を持つこと
認知症の進行について「認知症ねっと」に掲載されていました。
軽度認知障害(以下、「MCI」)から健常者への回復率は14%〜44%と幅はあるものの、早期発見し適切な対応をすることで回復する可能性が高いです。
かくれ認知症の存在
認知症とMCIの増加予想です。
2012年:高齢者の15%(460万人) ↓ 2025年:20.6%(730万人)
2012年:MCIは400万人 ↓ 2025年:700万人
上記の通り、MCIを含めると3人に1人が何らかの認知症または機能低下を呈していると予想されています。
全国では「かくれ認知症」として、約250万人が認知症と疑われているにも関わらず、医療機関等につながっていない人たちがいると言われています。
軽度認知障害(MCI)の理解
MCIの定義について、厚生労働省による「認知症施策の総合的な推進について」が参考になります。
包括職員として実際にMCIに関わる中で、感じる特徴は下記の通り。
- 本人や家族より記憶障害の訴えあり
- 健常の高齢者に比較して記憶が低下
- 全般的に認知機能は概ね正常でわかりにくい
- 日常生活は特に問題なく送れる
- 認知症という診断はつかない
- 二重課題(同時に二つの課題をする)が難しい
MCIは一見正常に見えます。さらに本人も正常と思っているケースが多い。だから見落とされることが多く、早期治療が遅れる要因と言われています。
検査数値だけで判断しない
認知症の判別をする上で、「長谷川式認知症スケール(HDS-R)を用いる場合があります。記憶や見当識など9項目を検査し、30点満点中20点以下は認知症と言われている検査です。
「図解理学療法検査・測定ガイド」によると、重症度別の平均得点は下記の通り。
・非認知症 :24.45±3.60点 ・軽度認知症 :17.85±4.00点 ・中等度認知症 :14.10±2.83点 ・やや高度認知症:9.23±4.46点 ・高度認知症 :4.75±2.95点
ただHDS-Rだけで「認知症」や「MCI」と決めつけるのは危険です。数値では出てこない生活上の支障や強みがあります。そこを社会福祉士としては発見し、医療従事者へ伝えていくことが重要です。
MCIを誘発する要因
MCIになってしまう原因はさまざまです。
・運動習慣がない ・ロコモティブシンドローム ・生活習慣病 ・食生活の乱れ ・過剰なアルコール ・喫煙習慣 ・うつ ・孤立や社会交流の希薄 ・遺伝的な要因 ・睡眠障害 ・視力や聴力の低下 ・咀嚼障害 ・歯周病
上記の通り。
僕が地域住民と関わるなかで、上記の要因に該当する方は多く見られます。このような方に対して、早期発見・早期治療を促すためにも、啓発活動をコツコツすることが求められます。
認知症の進行を遅らせる取り組み
認知症の1番の原因は「加齢」と言われています。そして、認知症になる直接的な引き金は「孤独」です。
社会参加が少ない人、孤独な人ほど、認知症を発症するリスクが高い
上記の通り。
いかに孤独を防ぐかが、認知症支援として重要なのです。
認知症に対する取り組みはさまざま
認知症に効果的な取り組みは下記の通りです。
- 効果①:運動と活動
- 効果②:生活習慣の改善
- 効果③:脳トレ
ではそれぞれ解説します。
運動と活動
一番大事なのは、自分が楽しんで続けられる運動を見つけて「習慣化」すること。
よって最初から、きつい運動は避けることが大事です。わりかし頑張らなくてもできるウォーキングなどの有酸素運動から始めるのが適当ですね。
さらに続ける仕掛けとしては、「友人と一緒に運動する」これです。とにかく楽しく、そして続けるための動機づけが重要になります。
習慣化するコツは下記の通り。
・日常の習慣に挟む ・1ステップづつ習慣をつくる ・仲間と一緒に行う ・運動後のご褒美を用意する ・やり慣れていることをする ・自分を褒めて、人も褒める
上記のコツを知っていると、必要に応じてアドバイスや活動へ促すことが可能になります。
生活習慣病の改善
一般的に言われている生活習慣病は下記の通り。
・食生活 ・飲酒と喫煙 ・睡眠
食生活は、認知症予防に非常に大切です。特にバランスよく、いくつもの食品を摂取することが良いと言われています。豆類・乳製品・海藻類・野菜などはもちろんのこと、ナッツ類や肉類も幅広く食べることが、健康に良い食事です。
大量飲酒は認知症になる可能性が高いです。上手な付き合いが大事ですね。喫煙はさまざま病気を誘発するので、良いことが一つもないです。
睡眠をしっかりとることで、ストレス緩和にもなります。ストレスの原因と言われる「コルチゾール」は、不眠によって大量に分泌され、海馬などの記憶を司る部分にダメージを与えます。
高齢者の夜ふかしは、認知症のリスクを2倍に高めます。就寝時間が遅い人や睡眠時間が短い人を見つけた際は、アセスメントのポイントの一つになります。
脳トレ
認知症予防として脳トレが効果的だということは、多くの方が知っていると思います。
脳トレで大事なのは、「コミュニケーションを取りながらすること」です。
コミュニケーションの有効性は下記の通り。
・会話中に相手の気持ちを推し量る ・言葉以外のジェスチャーや表情にも意識を向ける ・会話の次の展開を考える
コミュニケーションは常に脳を働かせます。よって、さまざまな刺激を受け取るので認知機能の予備力の向上に有効です。
脳トレは60代から初めても遅くない言われています。また前頭葉を刺激することで、感情コントロールや二重課題の低下を防ぎます。
社会福祉士に求められる役割と機能
さてここまで、認知症やMCIには「早期発見と早期介入」が必要だと理解できました。
しかし皆さんお気づきかと思います。
「最初の取っ掛かりが難しいのよ」
上記の通りです。
僕も包括職員として、特にMCIの方に関わる際、前章で挙げた「運動」や「生活習慣」などの視点で支援をしようとします。しかしながら、難色を示されることが多いです。
先日こんなツイートをしました。
MCIや認知症に対して、運動や活動が有効だと理解できる。ただ孤立してる人や閉じこもりの人が、どう外に出てもらうかが難しい。個別性はあるけど、ラポール形成や声掛けなど、認知症に特化した面接技術がキーになる。具体的に方法を言語化していきたい。
— タカヒロ@社会福祉士×ブログ (@ta_hi_ro_30) March 30, 2022
社会福祉士としてどう関わっていくか、さらにソーシャルワークをどう活用していくか、ここを紐解いていきます。
ソーシャルワークは認知症支援に有効
単に「運動」や「生活習慣」の改善を説明しても、受け入れてもらうことは少ないです。
認知症やMCIの方は、記憶や見当識低下になっても下記のようにわかっています。
「誰が偉いのか」 「誰が優しいか」 「誰が攻撃してくるか」
支援者や健常者は、このことを理解しておく必要があります。
ソーシャルワークで適切な介入を
それではソーシャルワークを使って、どのように介入したら良いのでしょうか。
方法は3つあります。
- 方法①:褒めることで強みを発見する
- 方法②:過去・現在・未来にある環境を使ってアプローチする
- 方法③:その人らしさの追求
上記の通り。それぞれ説明します。
褒めることで強みを発見する
「まず褒めること」。これが大事です。褒めることで、前頭葉が活性化すると言われています。
さらに人から、
・愛されること ・感謝されること ・必要とされること
上記のつながりは生きがいの追求にも関連し、脳の活性化だけでなく穏やかな人格へと変化させることにも寄与します。とはいえ、ソーシャルワークとしては画一的な「褒める」ではなく、適切な面接技術を活用しなければなりません。
- 非言語コニュニケーションの活用
- やや大きなジェスチャーで、「相槌」や「間」を使い分ける
- 穏やかな雰囲気と笑顔で話しかける
上記の通り。
まずこれらの面接技術を使って、ラポール(信頼関係)の形成を行ないましょう。
過去・現在・未来にある環境を使ってアプローチする
認知症において、過去の記憶(特に子ども時代)は長期間保てると言われています。よって場面に応じた「人」や「物」などの環境を使って、アプローチすることが有効です。
有効なアプローチは下記の通り。
- 回想法(昔の写真やおもちゃを使い思い出を語る)
- 芸術療法(絵画・歌・演奏などで楽しみを演出)
またソーシャルワークでは、家族(介護者)への支援も大切です。僕の経験ですが、家族に対しては下記の方法をよく伝えています。
方法①:1つ1つお願いする(同じ視野で) 方法②:うまくいっていることを伝える 方法③:さりげなく手伝う(失敗を防ぐ) 方法④:感謝を伝える
家族を支援することで、虐待防止にもつながります。周囲という社会資源を活用することは、ソーシャルワークとして専門性を発揮できる取り組みです。
その人らしさの追求
ここが一番伝えたいところです。
認知症やMCIになっても、生きている以上「人権」があります。これは当然のことですね。本人がどのような生活を送りたいのか、どのような生き方をしてきたのか、家族や関係機関と情報交換しながら支援することが大切です。
決して、「この人はこうだから」とか「認知症の特徴だから」といって、決めつけて支援(ある意味お節介)することは、専門職としてあるまじきことです。
ついついケースへのめり込むと、客観性が崩れてきます。これはどんなに優れているソーシャルワーカーでも訪れることです。
よって自己覚知を常に意識すること、さらに一人でケースを抱え込まず、同僚や上司または協働している関係機関に、現在の進捗や小さい悩みなどを伝えていくことが必要です。
まとめ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回の記事は、認知症の対応とソーシャルワークの方法について解説しました。
地域包括支援センターで勤務していると、MCIに関わる機会が相当あります。スクリーニングもさせてもらえないことが多々あるので、健常者・MCI・認知症の境目がわからなくなるときがあります。
さらに、その人らしさを追求するあまり、倫理的ジレンマに陥るときがあります。参考記事は下記をご覧ください。
ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法【結論:ジレンマの解決過程そのものが成長につながります】
この記事では、ソーシャルワーカーが抱く倫理的ジレンマの解決方法を、僕の実体験も含めてわかりやすく解説します。具体的な方法を挙げているので、明日からの倫理的ジレンマに対する行動が変わります。
しかし社会福祉士としては決めつけず、クライエントをありのまま受け入れ、焦らず介入することが必要です。特に認知症やMCIの場合は不安が強い傾向があるので、支援者側が不安を表出すると、すぐ気付かれる場合があります。
まずは穏やかや雰囲気をつくり、ラポール形成から取り組むことが認知症ソーシャルワークの第一歩だと、僕は思います。
今後も認知症やMCIについて、包括職員ならではの葛藤や成功体験などを伝えていくので、その際はご覧くださいませ。
では今回はこの辺で😌